個展

Solo Exhibition 2015

 

スペース・S / 東京  - Space・S, Tokyo, Japan -        

2015年10月10日‐10月25日  - October 10 - October 25, 2015 -

 

 

素材と彫刻、形と彫刻のはざまで

 

 文化庁の支援でアメリカに1年研修へ行っていた松岡圭介による帰国後初の個展である。素材と彫刻の関係を探求した1年を過ごした今回の展示作品には、松岡本人がアメリカで体験したことが随所に表れている。それは日本にはないアメリカの広大な自然に身をおいたことや、博物館で見た、頭部や腕などが欠けて残る石像に触れたこと、NYにある9.11の跡地を訪れたことなどを含め、日本を離れて改めて考えた彫刻という芸術それ自体への思索の表れでもあろう。
 松岡は一貫して「人間とは何か」というテーマを追いかけて制作をしているが、彼の「人間」というとらえ方は、現代人のように文明化された人間ではなく、はるか昔、まだ獣と人類との境目が曖昧な頃の人間、あるいは、生き抜くための超常的ともいえる身体能力や精神力を持つ人間の事を指すようだ。現代人は様々な道具や技術を生み出したことで、本来そうした人が持っていた能力を退化させてしまっているのではないか、人は本来ものすごい能力を秘めた存在なのではないかと考え、それを追求することが制作の動機となっている。
 例えばかつて発表された彼の代表作《a tree man》などは、木と同化する人の姿を、何かに縛られて動けない現代人になぞらえて苦しみの表現ととらえる人が多いが、松岡はむしろ、人はかつて木に変容する能力を持っており、木になることを選び取れたのではないか、それはとても自然なことではなかったかと肯定して考え、人の眠った能力をよび覚ますような、我々の感覚に訴えかける作品をつくろうとしている。《a tree man》は表面が砂鉄に覆われていたが、こうした彫刻の皮膚や素材にこだわるのも、素材から引き出される我々の感覚を大事にしているからであろう。
現在の松岡は、素材の探求から、空間の中のボリュームやマッスといった彫刻らしい探求へ再び向かっている。像の一部が欠けてもなお強く存在する彫刻に、人間が人間を超えたものになれることを仮託しているようだ。今回の展示はその序章であり、今後の展開が楽しみである。

 2015年8月30日

真住 貴子
国立新美術館主任研究員

 

 

 スペース・Sで4年ぶりとなる2回目の個展です。
 今回は2013年12月から約1年間のアメリカ滞在中の作品と、帰国後に制作した黒壇などの木を素材にした最新作を展示します。
 アメリカでは、現地での受入れを快諾して頂いた彫刻家 大平實氏のスタジオにて、その制作と環境に学びながら、自身も制作を行いました。
 また、大平氏の紹介を受け、隣接するブロンズスタジオにて蝋型鋳造の技法を基礎から学びながら、自身初めてとなるブロンズ彫刻を制作する機会にも恵まれました。
 平日の午前中は大平スタジオ、午後はブロンズスタジオにてそれぞれ制作を行い、朝と夜には自宅のアパートで平面作品制作やドローイングをすることで、1年間制作を続けました。
 日本とは異なる環境で気候や風土の違いを感じながら、新しい素材の可能性や制作工程から得られるフォルムの魅力などを発見することが出来たように思います。
 週末にはアメリカの広大な自然や文化に触れるべく、現地で購入した中古のカローラを運転して、毎週のように国立公園や地方都市、美術館や博物館などに出掛ける小さな旅をしました。
 その中で、人類が生まれる以前の地球の姿や、文明が降り立つ前の原始的な人々の営みに思いを馳せ、自身のテーマである「人間とは何か」について考え続けました。
 1年間のアメリカでの研修が、今後の私の制作にどんな影響を与えるかは正直分かりません。
 しかしアメリカ滞在中に私の心に灯った熱のようなものは、今でも消えずに私の中で確かに灯り続けています。今回の展示作品から、その熱のようなものを少しでも感じて頂ければ幸いです。
 

 2015年9月1日

松岡 圭介